85%の真実に
15%の嘘を混ぜて書いてる、
どどとダーリンのなれそめ小説。
前回までのお話
第一話
http://dodoiwasaki.com/2017/08/17/post-1208/
第二話
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お茶のペットボトルを片手に、
病院にお見舞いに行く日々。
気が付くと、どどは毎日お見舞いに行っていた。
仕事帰りに、マナトさんの病院へ行き、
途中で弁当を買って、
病院の休憩所で一緒に夕飯を食べるのが日課だった。
味気ない病院食に、ちょこっとおすそ分けしたり。
マナトさんは、思ったよりも後遺症が重かった。
左手が全く感覚が無いんだと、
ポツリと言ったマナトさんを、
なぜか笑わせたくて、
その左手を手にとり、
自分の胸にあて、
「悔しかったら揉んでみろ!」
と言ったどどは、
もしかして天才かも知れない。
マナトさんは、
「男」だ。
男前だし、男気のある人。
普通の男よりも、
実に男らしい部分を持っている。
そういう所が好きなんだけど、
別の角度から見ると、
普通に性欲のある男なのだ。
人間の三大欲は、
食欲
睡眠欲
性欲
五欲となると、ここに金欲と名誉欲(承認欲)が入るという。
基本は、寝て食べてエッチしてれば満たされるのだ。
カネカネ言ってる友達が、彼氏が出来た途端、
金の事を話さなくなるのは、良くある事ですね。
「じゃあ、手を動かせるようになったら、
チチ揉ませてやる!」
と笑いながら言ったどどに、
本気で悔しがったマナトさんは、
割と面白かったけど、
どどは本気だった。
人間の基本的な欲望を利用して、
リハビリすると、
非常に効果的な気がしたのだが、
それは、どどの下心とマッチしている。
故に、どどのこのアイデアは、
天才的だと感じたのだ。
マナトさんは、程なくしてリハビリ専門病院へ転院となった。
マナトさんの家からは遠くなり、
飲食店での仕事をしている嫁は、
あまり見舞いに来なくなった。
日々の洗濯は、実家の母がしてくれている様だった。
どどは、マナトさんにお茶を運ぶ名目で、
ほぼ毎日お見舞いに行くようになっていた。
二人でテレビを見たり、
病院内を散歩したり。
平な所なら自分で歩けるようになっていたが、
少し段差のある自動販売機までは、
なかなか行けない。
エレベーターで下の階まで行き、
缶コーヒーを買ってきてあげるのも、
どどの役割になった。
マナトさんは、着々とリハビリをこなし、
暇な時間も、自分でリハビリに励んでいた。
ある日、マナトさんが、
「爪、切ってくれないかな?」
と言ってきた。
確かに動かない左手で爪切りを持つのは難しい。
右手の爪が切れないのだ。
「看護婦さんにお願いしたらやって貰えるんだけど、
俺、そういうの言い難くて・・・」
実にマナトさんらしい。
同時に、爪を切ってくれるはずの嫁が、
長らく来てない事に気が付いてしまった。
何となく、聞けなかった事。
嫁について聞いてみることにした。
このタイミングしか無い。
「あれ?嫁は最近来てないの?」
どうやら、病院の面会時間と、
嫁の勤務時間が重なっているらしく、
休みの日しか来れないそうで、
最近は、その休みの日も別の用事があって、
来れないとか・・・
入院が長引くと、家族の負担が増えて、
こうやって見舞いに来なくなることは、
普通の事だと思う。
でも、ここは「マナトさん」なのだ。
マナトさんを置き去りにしていった嫁。
やっぱり、好きになれない。
どどは、その頃旦那と別居していた。
旦那が単身赴任で千葉に行ってたのだ。
そのため、毎日見舞いに来ても、
誰にも咎められない。
単身赴任に出かけた日、
物凄く気分が晴れた自分に気が付き、
もう、二度と一緒に住まなくて良いな。
このまま離婚しよう。
でも、どうやって??
答えが探せないまま、
何となくマナトさんに会いたくて、
毎日お見舞いに行く日々。
マナトさんと話してると、
旦那の事を忘れられた。
まだ寒い3月の初め頃、
リハビリ病院に転院し、
一ケ月になろうとしていたマナトさん。
手すりがあれば、自分で歩けるようにまで回復してきた。
付添いの人が居たら、外を歩いても良いですよ。
と、病院から許可が下りたのだが、
一緒に歩いてくれる嫁が来るのが数日後になるという。
「じゃあ、良かったら夕食後に、
ちょっとだけ外に出てみない?」
久しぶりに外に出れる事を、
マナトさんは素直に喜んでいた。
夕食を食べ終わり、
外が寒いので、なるべく厚着をして、
一階のロビーへ行き、
自動販売機で缶コーヒーを買った。
外で飲みたいらしい。
でも寒いから、そんなに長く居て大丈夫かな?
しかし現実は、そんな心配よりも、
もっと大きな難関が待ち構えて居たのだ。
病院の近くには川があった。
川と言っても、
都会に流れる川は人工的に作られた運河みたいなもので、
通称「どぶ川」だ。
なんせ、約2か月ぶりにシャバに出たマナトさんである。
そんな「どぶ川」でさえも目新しいと思ったのか、
「あの橋まで、歩きたい」
人間目標というものは、
何においても必要なものだ。
例え小さな目標であっても、
あそこまで歩く!
そう決めたのなら、やってみる事に意味がある。
平地を歩くのは大分慣れていたので、
問題無かったが、
いざ外に出てみると、
道は平ではないのだ。
コンクリートのうねり。
道の端は小さな坂。
歩道に上がるには段差。
アスファルトの継ぎ目。
全てが歩き始めたばかりのマナトさんの障害になるのだ。
健康な人なら3分もあれば到着する橋が、
なかなか着かない。
ようやく橋の近くに来てみたら、
橋に行くには、結構な坂になっているではないか?
「もう、病院戻ろうか?坂凄いよ」
マナトさん首を横に振り、
「いや、せっかくだからリハビリがてら頑張ってみるよ、
ちょっと肩貸してくれ」
私の肩に手を置くと、少しづつ坂を上り始めた。
何とか橋に到着したので、
「凄いな、良くここまで回復したもんだな!」
と、言うと、
「俺も、ヤバいと思ったけどな」
と笑うマナトさん。
こうやって、少しづつ回復して行けば良い。
退院は決まってないけど、
近い将来マナトさんは退院する。
そしたら、今みたいに気軽に会えなくなる。
マナトさんのお店に通って、
今は、マナトさんの入院先に通って、
そんな風に、気軽に通える場所が、
もうすぐ無くなるのかな?
お別れの日が近いのを感じてた。
退院したら、嫁と一緒に生活するだろうから、
そうそう、会いには行けない。
携帯で連絡取るのも、あんまり良くないな。
別に不倫をしている訳ではないのだけど、
どどの下心が、不倫モードの思考回路になっているのだ。
缶コーヒーを飲んでいたマナトさんは、
急に真面目な顔をして、
話し始めた。
「実は、病院の中では話せない事があってな。
俺、もう嫁と別れようと思ってるんだ。
アイツは、退院したら俺を支えるとか言ってるけど、
こんなに見舞いにも来れない位忙しいヤツが、
帰ってから、もっと手がかかるのに、
出来る訳ないと思う。
元々別れようと思ってたんだけど、
そうこうしているうちに、
自分が倒れてしまって、
言い出せなかったんだ。
でも、もう退院してからは、
一緒に暮らさない事に決めたから。」
暗いどぶ川は、家の明かりを反射して、
キラキラ揺らめいていたけど、
その流れは、一体どちらの方向に向かっているのか、
サッパリ見えなかった。
離婚の理由が、嫁思いなのが気に入らなかったが、
話を聞いて、嬉しかったのは正直な気持ちだ。
「どども、もう旦那とは別れるって決めてるんだ。
ただ、どうやって別れたら良いか、今は解らないけど。」
「そっか・・・・・」
マナトさんは、ちょっと黙り込んでから、
「・・・・・こんな事言うのは良くないと思ってたけど、
俺は、いつか、どどちゃんと一緒になりたいと思ってるよ」
「一緒になるって、結婚するって事?
え?でも今、結婚してるじゃん、お互い。」
「だから、すぐじゃなくて、いつかだ!」
「・・・・うん。そうなれたら良いよね。」
そんな日が来るのだろうか?
どどの心の中は、
流れの見えないどぶ川の様だったけど、
マナトさんの言葉は、
水面に揺らめく光の様な気がした。
お見舞いからの帰り、駅へ向かう道の途中、
先ほど、マナトさんと眺めたどぶ川の橋をひとりで渡った。
振り返ると、マナトさんの入院している病院が見えた。
マナトさんとどどの間には、どぶ川が流れていて、
それは、二人の世界を分断しているように思えたけど、
橋を渡れば行き来できる。
マナトさんと結婚できる橋を探そうと、
思ったけど、
なんだか、涙が溢れてきて、
その涙はうれし涙だったのか、
不安な気持ちが溢れたものだったのか、
今でもわからないけど、
とにかく、どどの魂が泣いていた。
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人生は、大きな川を渡るとか、
高い山を登るとか、
そんなドラマティックな事では無く、
なんてことない日常の中で、
どぶ川の橋を渡る様なものかもしれないですね。
この数年後、どどさんは、小さいどぶ川の橋を何本か渡り、
マナトさんと結婚したのです。
嘘みたいな本当の話。
15%のフィクションを添えて・・・

マナトさんは、どどのダーリンの仮称で、
朝夏まなと様ではありません。
(自分への確認)
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