未来への道 ~ 5番目の信号

ダーリンとのなれそめ小説を書いてます。

前回までの話はこちらからどうぞ。

 

ダーリンとの出会いからプロポーズまでの話

 

プロポーズされてから離婚するまでの話

 

 

離婚してから結婚・出産まで。

 

 

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大阪家庭裁判所は、大阪城のお堀のすぐ近くにある。

裁判所の入口からは、大阪城の本丸も見えた。

 

どどは、アヤちゃんを抱っこ紐でくくり、

電車で向かう事にした。

マナトさんは、裁判が終わったらそのままお店に行くので、

自転車で向かうと言う。

 

地図で確認していたので、

駅からの道のりは問題無かった。

アヤちゃんに、一番可愛い服を着せて来た。

久しぶりに元旦那に会うので、

 

「あなたと別れて、最高に生き生きしてます!」

 

という所を何がなんでも、アピールしたかった。

 

実際、以前よりも生きてる実感はあった。

なんせ、ただ息をしてるだけみたいに、

毎日を過ごしていたのと、

マナトさんの優しさや、

アヤちゃんの温もりを感じる生活は、

雲泥の差があると思った。

 

割とご機嫌なアヤちゃんと、

大きな道を歩いて行くと、

大阪家庭裁判所が見えて来た。

 

弁護士バッジを付けた、

いかにも!なイタリアンスーツの人もいれば、

冴えないサラリーマン風の人、

およそ弁護士には見えない雰囲気の人まで、

色んな弁護士さんが、

クライアントと共に歩いていた。

 

七海先生とは、待合室で落ち合う事になっていた。

 

行き交う弁護士に混じって、

知ってる顔の男が出てきた。

元旦那だった。

 

え?こんな所で会っちゃうの?

 

一瞬顔が強張ったけど、

今日の私は、

「あなたと別れて、最高に生き生きしてます!」

という女なのだ。

 

「あ、お久しぶり。これがアヤちゃんだよ。

可愛いでしょ?」

 

自分から声をかけた。

 

元旦那も顔が強張っていた。

アヤちゃんをチラっと観て、

 

「そうだね、可愛いね」

 

と、気のなさそうな返事をしていた。

ざまあみろ!

どどには、アヤちゃんが居るんだからね。

お前は相変わらず一人だな。

 

笑顔で、

「では、後程」

と言って、家庭裁判所に入って行った。

 

離婚のすったもんだで、

先手必勝という流れを掴んでいた。

今日も、まさに先手必勝だった。

 

元旦那が狂って、怒鳴り散らしたりするときは、

最初から、目がイってた。

今日は、凹んでるみたいだったので、

このまま、何も無く上手く行きそうだと感じたのだ。

 

控室は、共有だというが、

他には誰も居なかった。

勿論、裁判を争う者同士は、

別の控室を使う事になる。

 

アヤちゃんは、とてもご機嫌で、

膝の上で、のんびりしていた。

ちょっと、いつもと違う所に居る事だけは解ったみたいだけど。

 

程なくして、マナトさんがやってきた。

先ほど、元旦那に会った事を伝えて、

ちょっと落ち着いたと、伝えた。

マナトさんは、

「大丈夫だよ」と微笑んでいた。

 

いつもマナトさんは、

こうやって、どどを応援してくれる。

元はと言えば、

さっさと別れなかったどどが悪いと思っていた。

しかし、マナトさんは、

アヤちゃんが来てくれた事が、

奇跡だから、

色んな事があっても、

これで良いんだよ。

と、微笑んでくれるのだ。

 

暫くすると、七海先生がやってきた。

七海先生は、事務所で会った時とは、

明らかに違って見えた。

完全に仕事モードなのだ。

気のいいおじさんが、

突然、ベテラン弁護士に見えた。

 

程なくして、調停委員と呼ばれる弁護士の方がやってきた。

調停委員は、調停を円滑にすすめるために、

事情を聴いてくれる人だそうで、

女性の方だった。

 

女性の調停委員の方が、

七海先生を見て、

 

「どうも、お久しぶりです。

七海先生がご担当でしたか。」

 

「いや、どうもお世話になります。」

 

「先生がついてらっしゃるなら、

もうしっかりと、まとまっているとは思いますが、

一応、形式に則って、

事情をお聞きしますね。」

 

追い風を感じた。

 

「もしも、DNA鑑定が必要という事になるかもしれないので、

念の為、ご主人とお子さんも来て貰ってます。

それが、そっくりなんですよ。」

 

七海先生は朗らかに、

笑みを浮かべながら調停委員の方に言ったのだ。

 

子供を連れて来たのは打算なのだが、

その笑顔には、そんな打算は無いんですけどね、

と書かれていた。

 

七海先生は、恐ろしく緻密な人だと、

ちょっと寒気を感じた。

 

普通のおじさんではないのだ。

長年、様々なドラマを見て来た、

人生における職人なのだ。

 

声色や、表情をコントロールして、

相手に与える印象を変え、

裁判を有利に導く事に特化した、

役者とも言える。

 

どども、七海先生の邪魔をしないように、

しっかり演じなければいけないんだ。

今まで無いくらいの集中力を高め、

今、この瞬間で何をどう答えたら良いのか、

と、必死に自分の記憶領域をフル回転させた。

 

別室にどどだけ行き、七海先生同席の元、

調停委員の先生の事情聴取が始まった。

 

まずは、離婚してから、結婚するまでの事実関係の確認。

 

○年○月○日に離婚しました。

○年○月○日に結婚しました。

出産したのは、○月○日です。

その間、元旦那とは性交渉が無い事を証言。

 

そして、離婚の原因について。

 

色々あるものの、

一番の理由は「セックスレス」だと伝えた。

 

調停委員の先生もそれには、

「では、お子さんは確実に現在のご主人のものですね。」

と、まとめてくれた。

 

まとめやすい事をわざと言ったのだ。

 

今回の調停は、

アヤちゃんが、元旦那の子供ではない事が証明されれば良いのだ。

ここには余計な情報は要らない。

 

随分前から別居していた事。

別居する前からセックスレスだった事。

離婚のタイミングが、元旦那の、

「財産分与の計算」で遅れた事。

 

これが、全てだ。

そして真実だ。

 

調停委員の方は、

「では、こちらで内容がまとまりましたので、

後程、裁判官の前でも同じことを証言してくださいね。」

 

と、一旦待合室に戻る事になった。

 

待合室に帰ると、

アヤちゃんを抱っこ紐でくくって椅子に座ってるマナトさんが居た。

 

「アヤちゃん、おりこうにしてたかな?」

「おう、なんかボーっとしてたぞ。」

 

アヤちゃんにおいで!って手を出すと、

アヤちゃんもニッコリ笑って、

どどに手を出してきた。

 

アヤちゃんを抱きしめてると、

温もりがパワーになる気がした。

 

程なくして、調停が始まるという事で、

どどは、会議室に呼ばれた。

 

コの字型にテーブルが並んだ会議室の

向こう側には元旦那が元旦那側の調停委員の方と座っていた。

こちらには先ほどの調停委員の方と、七海先生、そしてどど。

 

裁判官の方が部屋に入ってきて、

調停が始まった。

 

裁判官の方は、恐ろしい程の眼力で、

 

「嘘偽りの無い証言を約束できますか?」

 

と聞いて来た。

その瞳はどんな人間の心をも映し出し、

真実を見極める瞳に思えた。

 

瞳の奥にある深い闇から発せられる、

なんとも言えないパワーは、

今までみた事の無いものだった。

 

一通り、調停委員の方が事情を聴いた内容を、

裁判官に報告し、

その後、いくつか質問がきた。

 

別居してたのはいつからか。

別居中に性交渉は無かったか。

 

テキパキ答えるどどに反して、

元旦那は、

「えーっと、そうだったと思います。」

といった感じで歯切れが悪い。

 

調停委員の方からも質問が来て、

 

「セックスレスだと仰ってましたが、

およそ、どれくらいの期間になりますか?」

 

「結婚当初からなので、もう7年になると思います。」

 

同じ質問を元旦那にしたところ、

 

「2,3年だと思います。」

 

と、嘘をついていた。

本当に残念な男だ。

 

ああ、元旦那には見えないのか。

裁判官さんの深い瞳が。

お前は、嘘をついてはいけない人の前で、

嘘をつくという、罪を犯してるんだぞ。

また、やっちゃったね。

 

最後に裁判官さんのお話しで締めくくられた。

「こちらの調停の結果は出来次第、

書面で送らせて頂きます。

出生届は、調停の結果が届き次第、

手続きできます。」

 

終わった。

 

心配していたDNA鑑定も、必要ないという事で、

アヤちゃんを調停の場に連れて来る事もなく、

結審した。

 

待合室でマナトさんとアヤちゃんが待ってる。

なんて心強いのだろうか?

 

アヤちゃんは、マナトさんと、どどの子供だ。

それは事実だけど、

ようやく、戸籍上認められるのだ。

 

そこから約1か月後、裁判所から書面が届いてると、

七海先生から連絡を貰った。

 

三人で七海先生の事務所に足を運び、

すんなりと事が運んだ事にお礼を言った。

 

七海先生の事務所からの帰り道、

太陽が明るい冬の午後だった。

 

マナトさんと出会ったのは、二年前の春先。

そして入院したのは冬だった。

退院したのが春で、

去年の今頃はお店を開店させた。

そしてその一年後の今日は、

アヤちゃんと一緒に歩いてる。

 

「アヤが一歳位になったら、結婚式しよう」

「うん!」

 

マナトさんと、未来の話をするときが、

どどは一番楽しい時だと思った。

そして、これからはアヤちゃんも一緒に、

未来の話をしていこう。

 

冬らしい冷たい突風が、頬に当たった。

まるで、今まで流した涙を吹き飛ばしてくれた様だった。

風は冷たかったけど、どこまでも明るい道を、

三人で家に向かって歩いていた。

 

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この物語は、ありふれた女が、

自分の居場所を見つけるためだけに、

人生と言う名の冒険をした話である。

 

そして、その最終到着地点は、

「家」なのだ。

愛する人と暮らす、「どどの家」なのだ。

 

夢を持つのは難しいかもしれない。

そして夢を叶えるのはそれ以上だ。

しかし、夢が叶った今、

その夢を続けて行くのは、とても大変だ。

 

新しい夢は要らない、

どどの夢だった家庭を、

「どどの家」を続けて行くだけだ。

 

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マナトさんとどどは、

今もちょっと先の未来の予定を立てて、

毎日笑ってます。

 

どどの夢だった、

妊娠・出産・育児を叶えてくれたマナトさん。

マナトさんの夢は、子供を作る事と、

自分の店を持つ事だったそうで、

お互い叶えられましたね。

 

どぶ川の上でのプロポーズは、

お互い、右も左もわからない状態だったけど、

二人共、幸せになれたのは奇跡ですね。

 

不可能な事だと思っても、

何事もチャレンジする事が、

夢を叶える第一歩ですね。

 

朝夏まなと様の、

キュッと上がった頬筋が好きです。

 

 

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