その日は、アリサとサシ飲みの日だった。
アリサは他部署で働く友人で、
一番の飲み仲間だ。
二人でお気に入りの居酒屋に出かけ、
ガツガツ食べて、ガツガツ飲むという。
いつもの体育会系な飲み会は、
気兼ねしない関係が、お互い居心地が良くて、
定期的にサシ飲みに出かけていた。

いつも通り、アホみたいな話しかしないのだが、
その日の話題は、ヒカルについてだった。
ヒカルは、総務課の課長で独身。
割と女性が多い職場では、人気がある男だった。
しかし、総務という立場なせいか、
他部署の人と話す機会も多く、
色んな部署に女を作る、
駄目な男でもあった。
しかし、憎めない魅力を持ってるヒカルは、
とにかくモテるのだ。
「ねえ、ヒカルの新しい女って知ってる?」
アリサもどどさん同様、
様々な飲み会に参加しているため、
行った先々で、色んな情報を耳にしていた。
アリサとの飲み会は、
所謂、情報交換の場であった。
ヒカルの新しい女。どれが新しくて古いのか、
時系列で整理しないとな。
なんて、笑い話が出る位、
ヒカルの女関係は混沌としていた。
本命の彼女は、どうやら職場には居ない様だけど、
職場の食い散らかし方が凄い(笑)
アリサと答え合わせを始めたどどさんだった。
「まず、営業のアオイさんでしょ、
んで、休日映画館で目撃したセイコ。
この前、旅行に行った時にカミングアウトしちゃったスミレ。」
「スミレは衝撃だったね。
旅行に遅れて合流するから、
二人で車で来るついでに、
ラブホに寄って来たとかさ。
あれは、面白かったね(笑)」
「んで、もう終わったかも知れないけど、
アユミも確実だよね。」
「なんせ、ヒカルの他の女の話をした時の、
豹変っぷりが。
あの人、自分が本命だと思ってたよね。」
「あーあと定番のあの人忘れちゃだめだよ。
クミさん!
あの人は、完全に古女房化してないか?
ヒカルの噂話とかも、普通に笑顔で聞いてたもん。」
「ねえ、それって自分だけ騙されて無いと思ってるんじゃない?」
「え・・・だとしたら怖いね。
一番ヤバい人じゃない?」
「で、そろそろ教えてよ。新しい女って誰よ?」
「意外・・・かもよ(笑) 3階のパートさんのユキちゃん」
「げーーーーー。あんな若い子まで手籠めにするのか?」
「ヒカル凄いねえ(笑)」
「なんで、モテるのか訳わからん。」
「ハゲは絶倫だからじゃない?」
そう、ヒカルはハゲなのだ。
ハゲでもモテてる、すごい人だ。
「ねえ、アリサ、ユキちゃんにはびっくりなんだけど、
この話知らなかったっけ?」
それは、先日退職したリリカのことだ。
リリカは、ちょっとかわいくて、男性に人気のある女だったが、
ある飲み会で、ヒカルに持ち帰りされたのだ。
それとは関係なく、別の会社に移るとかで退職したのだけど。
「マジかよ?」
「マジだよ。」
「とりあえず飲むか?
生ビールお代わりお願いします。」
酒飲みの特徴の一つは、
何かと飲む口実を作ることで、
何があっても、まあ飲むか!
って話を変えたり出来ることである。
アリサが急に冷静になって、
指折り数え始めた。
「アオイ、セイコ、スミレ、アユミ、クミ、ユキ、リリカ」
「7人か!」
「ヒカルと7人の女ってことか。」
白雪姫と7人の小人達?
的な楽しさを感じつつ、
アリサと笑わずにはいられなかった。
なぜ、同じ職場で食い散らかすのか?
なぜ、他にも色々と噂を流しておきながら、
新規が増えるのか?
ヒカル凄いな!
としか言いようの無い現象だ。
しかし、喰った女の数だけ酒が進むのが、
有難い。
アリサは、同じペースで飲めるから楽しいのだが、
どちらも止めようって言わないから、
ついつい飲みすぎる。
まあ、そこが好きなところだけど。
こんなに噂されてて、今頃ヒカルは、
どこかでクシャミしてるよね。
「ねえ、でもさヒカルも、もう40だし、
そろそろ結婚とか考えてるんじゃない?」
「なんかさ、
彼氏にするには良いかもしれないけど、
旦那にするのは嫌だよね!」
「浮気って病気だからさ」
そんなアリサは、長年付き合ってる彼氏が居る。
どどさんにも彼氏が居る。
でも、ぶっちゃけ、結婚よりも、
こうやってアリサと飲んでるのが、
楽しかった。
こんな日々が続けば良かったのだが、
お互いその時付き合ってた彼氏と結婚して、
お互い少しずつ苦労する事になるのだ。
アリサは離婚してないけど(笑)
ヒカルと7人の女達は、
少しずつメンバーチェンジや、
メンバー脱退を繰り返し、
日々更新されて行っていた。
そんなヒカルだったが、
やはり職場の玄関で待ち合わせして、
2人で飲みに出かけても、
全く噂にならない、どどさんだった。
会社の内線電話で、飲みに誘われる。
「今日、行くか?」
「おう!行こうぜ!」
ただの飲み友達だ(笑)
しかし、ヒカルの誘いは、
メンバー全員に断られた後にかかって来る理由なので、
ああ、今日はメンバーさん忙しいのか!
って、軽く吹き出すのを堪えつつの、
「おう!行こうぜ!」
なのだ(笑)
そんな時のヒカルは、
ちょっと寂しそうなのが、
割と頭に来る感じだった。
失礼な男だ!
「今日は奢れよ!!」
「そんな事言うの、お前だけだぞ!」
そりゃそうだ!
メンバーさんは、奢られるのが当たり前だもんな!
そんなヒカルは、そこから約10年後の50歳手前で、元メンバーさんと結婚した。
前出の7人の中には、勿論居ない、
後期メンバーさんだった事を、
ここに報告致します。(笑)
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