職場の先輩サユミは、
普段は優しくて良い先輩なのだが、
酒が入ると、荒れ狂う女だった。

きっかけはいつも些細な事なのだが、
誰かが言った、ちょっとした一言に、
突然キレるのだ。
その日も、同僚のユカが言った、
「やっぱり彼氏居ないと卑屈になるんですかね?」
という、サユミでは無い他の人にあてた言葉に、
猛烈に反応。
「ちょっと、それどういう事?
私の事を言ってるの?」
確かにサユミは、30代半ばで独身。
彼氏も居ないし、
でも、今は別にサユミの話をしている訳ではない。
普通の人なら、
「私も他人の事言えないけど・・・」
って自嘲しながら、会話を合わせるものだけど。
とにかく戦闘態勢に入ったサユミは、
猪突猛進というか、
とにかく攻撃的で、誰の話にも耳を傾けなくなる。
この日も、まさにそんな状態だった。
私は、そんなサユミが羨ましくもあった。
人前でこんなに自分の感情をむき出しに出来るって、
なんだかすごい事だし、
結局こんな事しても、それほど嫌われて無いのが凄いな。
と、思うのだ。
とにかくサユミは、突然荒れ狂い始めた。
サユミは、もしかしたら、
何か精神的な病気なんかもあるのかも知れない。
とにかく尋常ではない様な狂い方だった。
ユカが何度も、
「サユミさんの事じゃないですから!」
と説明しても収まらない。
「どうして、そんな失礼な事が言えるの?
酷いじゃない?」
と言えば良さそうな事を、
「ちょっと、どういう事なの?
あなたって、そんな失礼な事ばっかり言ってて、
良く平気ね。
どうせ、いつもそういう風に私の事を見てたんでしょ?
解ってるんだからね。」
といった具合で、もう思考回路がショートしている。
そう、解ってないのはサユミだ。
ぼーっと眺めて居たどどさんだったが、
割とこういう狂った人を相手するのは、
酒のアテになる。
「えーーどうしてサユミさんはそう思ったの?」
狂ってる人には質問が良い。
ちょっと我に返って頂き、冷静さを取り戻して頂くのだ。
「どうしてって、だってそうじゃない?
そんな失礼な事がサラっと言えるって事は、
いつも、そう思ってるからじゃないの?」
「失礼だと思ったのはサユミさんであって、
ユカは決して馬鹿にしてる訳じゃないと思うけど?」
「卑屈になってる原因が、彼氏が居ないから?
と、予想しただけで、
彼氏の居ない人が全員卑屈なわけじゃないでしょ?」
「だいたい、サユミさんの話なんて今してないですよ」
「どうして、自分の事を言われたと思ったの?」
「あ、ちょっと飲みすぎて聞き間違えたのかもよ?」
「ね、そうじゃない??」
嘘みたいな展開だけど、
所詮酔っぱらいなので、
これくらいの話をそれ風に展開するだけで、
割と収まったりするのだ。
だいたい、この辺りまで来ると、
気分を取り直して、
納得してくれるものだ。
なんせ酔っぱらいなので。
そして、じゃあもう一杯づつ飲んで帰りますか?
という、展開だ。
すっかり機嫌が直ったサユミだが、
かなり酔っぱらってる事には変わりなく、
フラフラと足元もおぼつかない。
居酒屋まで自転車で来ていたので、
危ないから、自転車はやめたら?
と、言ったが聞かず、
店を出てから自転車を漕ぎ始めた。
辞めれば良いのに、
「バイバイまたねー」と振り返ったもんだから、
バランスを崩して、塀に激突!
そして、転んだ。
慌ててユカと走り寄ると、指から血が出ていた。
サユミ、良い加減にしろよ。
「痛いよーーー」
年甲斐も無く、泣き始めるとか・・・
なんて面倒な女なのだ。
近所にあった総合病院の急患受付に駆け込んで、
診察して貰えたのは良かったけど。
ユカと二人で、
暫くサユミさんは、飲み会に誘うの辞めようね。
ただの酒乱だから。
と、話がまとまったのだった。
サユミさんは、その後も独身を貫き、
一人暮らし用のマンションまで購入し、
悠々自適にシングルライフを満喫している、
と、信じたい。
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