どどさんの仲良しのオッサン、ユウさんは、
結婚して、お子さんも居ると言うのに、
毎晩の様に飲み歩いていた。
そして、会社の守衛室の予備ベッドで寝泊まりしているのだ。
どどさんの勤めていた会社は、
当直勤務があり、
シャワー室や、ベッドなどがあった。
以前は、数人寝泊まりしていたのだが、
最近は、1名体制となり、
空きベッドがあったのだ。
そのため、ユウさんは、
やたら職場に寝泊まり出来ていたという訳だ。
とはいえ、今時はそんな事が許されないと思うので、
良い時代だったと思う。
元々山登りが趣味のユウさんだったので、
サバイバル生活が板についてるというか、
わりと、ワイルドに生きてるオッサンなのだ。
ユウさんとは、仲良しだったので、
割と突っ込んだ話もしていて、
なぜ、ユウさんが家に帰らないのか?
という疑問をある時投げかけてみた。
実は、ユウさんの奥様は病気一歩手前の、
超綺麗好き。
山で何日も野宿出来ちゃう、ユウさんとは真逆の人。
ユウさんは、料理でも何でも出来るのだが、
掃除が苦手なのだ。
夜家で飲んでると、
奥様が、台所が片付かないから、
もう、飲むな!と言う。
夜家に帰って、お茶でも飲もうかと、
冷蔵庫を開けると、
「あなた、冷蔵庫開けたでしょ?」
と、怒られる。
ドアの取っ手に指紋が付いてるからバレたそうで、
以後、ユウさんは犯罪者の様に、
タオルで指紋が付かないように、
冷蔵庫を開け閉めしているそうだ。
そして、家に居る間じゅう、
汚い!と文句を言われ続けるので、
次第に帰りたくなくなったそうだ。
そんな綺麗好きな奥様だが、
壁紙をごしごし拭くので、
壁紙がボロボロになったそうで、
ある時、家のリフォームをすることになったそうだ。
勿論、ユウさんの部屋は壁紙が綺麗なままだったという。
ユウさんの趣味は山登りとスキーだったので、
一年じゅう、休日は山で過ごしていた。
そのため、平日しか家に帰らないのに、
その半分以上は職場で過ごすという生活をしていた。
これ、完全に別居だとおもうんだけど、
どういう訳だか、離婚にはならなかったんだよね。
そんなユウさんの若かりし頃の武勇伝を、
ある日、飲みながら聞いて、爆笑したのだ。

ユウさんが若かった頃、
会社の前にちょっとした庭があって、そこに池があり、
なぜか錦鯉が泳いでいたそうなんだ。
ある日、鯉なんだから食えるよな?
という事になり、他部署の友人と、
鯉の捕獲に行ったそうだ。
どどさん素朴な質問したよね。
「え?それって、泥棒じゃん。」
ユウさんは平然と答えた。
「そうなんだよ。でも腹が空いててさ。
だって、給料全部酒代に消えちゃって、
食べるもの無かったんだよ。」
ワイルドにも程がある。
食べ物を求めて、狩りに出るとか。
狩猟民族がこの世に存在していたのは、
遥か昔の事では無いか?
どこから持って来たのか解らないけど、
水中銃片手にやってきた友人と、ユウさんは、
海パンに着替えて池に入り、
「狙いを定めてズドン!」
と水中銃で仕留めたらしい。
この「ズドン!」を居酒屋でリアルに再現してくれたので、
もう、腹筋崩壊というか、
息が出来ない位の大爆笑だった。
「水中銃って撃った事あるか?」
あるわけがない。
「結構な衝撃だったぞ!」
んな事、知るかよ!(笑)
「結構デカい鯉だったんだよ。重たかったよな。」
収穫の重みは、達成感の表れ。
みたいな話だが、
冷静になってみると、ただの盗人だから。
デッカイ鯉を持って帰ったのは良いとして、
調理に手間取ったので、
社員食堂の調理師の友人を急遽呼び寄せ、
鯉こくにして貰ったそうだよ。
「今から、鯉こく作って貰うから、
包丁と、醤油と砂糖もってこいよ!」
なんの事だか解らず、
とりあえず呼ばれたから仕方なくやってきた調理師。
もちろん、首をかしげて、
「この鯉、どこから持って来たんだ?」
って、言ってたそうだけど、
ユウさんが、
「もう、良いから、早く食べようぜ!」
と、説き伏せて食べたらしい。(笑)
どどさん、またまた素朴な質問しちゃったよね。
「錦鯉って、普通の鯉とは味違うの?」
ユウさんの答えは、さすがだった。
「何言ってんだよ!錦鯉も鯉も一緒だよ。
柄が違うだけだよ!」
ああ、しかし、その柄が違うだけで、
お値段が全然違うのだが・・・
「しかし、結構食べごたえあってさ、
鯉こくと酒で、給料日までなんとか生きれたよ。」
酒買うお金で、米でも買ってくれよ!
と、喉元まで出かかったが、
なんせ相手は「酒命(さけいのち)」のユウさんなので、
そこは、飲みこんだ。
こうやってユウさんは、
錦鯉をパクって食った男として、
後世まで語り継がれるのだ。
今だったら、防犯カメラで犯人割り出されて、
ユウさんは、懲戒免職になっていただろう。
本当に、良い時代だったね(笑)
そんなユウさんだが、
定年退職後、やはり家に帰りたくなくて、
大好きな山の近くにある中古のペンションを、
退職金で買って、一人で暮らしている。
かなり奥様に怒られたそうだけど。
しかし、山やスキーの仲間が、
恐ろしい程沢山居る為、
ちょっとした商売にもなってるようだ。
毎週末には、ユウさんのペンションを起点に、
山登りやスキーに出かける仲間が泊りに来て、
中には、長期ステイの方も。
いつも楽しくて、
どんな人でもウェルカムなユウさんは、
沢山の人に愛されている。
ユウさんの生き方を見ると、
「好きこそものの上手なれ」
という言葉が浮かんでくる。
どどさんの人生の師匠と言っても、
過言ではない。
師匠に会いに行きたくなった。
一升瓶片手に、訪ねたい。
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