どど飲み話6 家に帰らない男

どどさんの仲良しのオッサン、ユウさんは、

結婚して、お子さんも居ると言うのに、

毎晩の様に飲み歩いていた。

 

そして、会社の守衛室の予備ベッドで寝泊まりしているのだ。

どどさんの勤めていた会社は、

当直勤務があり、

シャワー室や、ベッドなどがあった。

以前は、数人寝泊まりしていたのだが、

最近は、1名体制となり、

空きベッドがあったのだ。

 

そのため、ユウさんは、

やたら職場に寝泊まり出来ていたという訳だ。

 

とはいえ、今時はそんな事が許されないと思うので、

良い時代だったと思う。

 

元々山登りが趣味のユウさんだったので、

サバイバル生活が板についてるというか、

わりと、ワイルドに生きてるオッサンなのだ。

 

ユウさんとは、仲良しだったので、

割と突っ込んだ話もしていて、

なぜ、ユウさんが家に帰らないのか?

という疑問をある時投げかけてみた。

 

実は、ユウさんの奥様は病気一歩手前の、

超綺麗好き。

山で何日も野宿出来ちゃう、ユウさんとは真逆の人。

 

ユウさんは、料理でも何でも出来るのだが、

掃除が苦手なのだ。

 

夜家で飲んでると、

奥様が、台所が片付かないから、

もう、飲むな!と言う。

 

夜家に帰って、お茶でも飲もうかと、

冷蔵庫を開けると、

「あなた、冷蔵庫開けたでしょ?」

と、怒られる。

ドアの取っ手に指紋が付いてるからバレたそうで、

以後、ユウさんは犯罪者の様に、

タオルで指紋が付かないように、

冷蔵庫を開け閉めしているそうだ。

 

そして、家に居る間じゅう、

汚い!と文句を言われ続けるので、

次第に帰りたくなくなったそうだ。

 

そんな綺麗好きな奥様だが、

壁紙をごしごし拭くので、

壁紙がボロボロになったそうで、

ある時、家のリフォームをすることになったそうだ。

勿論、ユウさんの部屋は壁紙が綺麗なままだったという。

 

ユウさんの趣味は山登りとスキーだったので、

一年じゅう、休日は山で過ごしていた。

そのため、平日しか家に帰らないのに、

その半分以上は職場で過ごすという生活をしていた。

 

これ、完全に別居だとおもうんだけど、

どういう訳だか、離婚にはならなかったんだよね。

 

そんなユウさんの若かりし頃の武勇伝を、

ある日、飲みながら聞いて、爆笑したのだ。

 

 

ユウさんが若かった頃、

会社の前にちょっとした庭があって、そこに池があり、

なぜか錦鯉が泳いでいたそうなんだ。

 

ある日、鯉なんだから食えるよな?

という事になり、他部署の友人と、

鯉の捕獲に行ったそうだ。

 

どどさん素朴な質問したよね。

 

「え?それって、泥棒じゃん。」

 

ユウさんは平然と答えた。

 

「そうなんだよ。でも腹が空いててさ。

だって、給料全部酒代に消えちゃって、

食べるもの無かったんだよ。」

 

ワイルドにも程がある。

食べ物を求めて、狩りに出るとか。

狩猟民族がこの世に存在していたのは、

遥か昔の事では無いか?

 

どこから持って来たのか解らないけど、

水中銃片手にやってきた友人と、ユウさんは、

海パンに着替えて池に入り、

 

「狙いを定めてズドン!」

 

と水中銃で仕留めたらしい。

 

この「ズドン!」を居酒屋でリアルに再現してくれたので、

もう、腹筋崩壊というか、

息が出来ない位の大爆笑だった。

 

「水中銃って撃った事あるか?」

 

あるわけがない。

 

「結構な衝撃だったぞ!」

 

んな事、知るかよ!(笑)

 

「結構デカい鯉だったんだよ。重たかったよな。」

 

収穫の重みは、達成感の表れ。

みたいな話だが、

冷静になってみると、ただの盗人だから。

 

デッカイ鯉を持って帰ったのは良いとして、

調理に手間取ったので、

社員食堂の調理師の友人を急遽呼び寄せ、

鯉こくにして貰ったそうだよ。

 

「今から、鯉こく作って貰うから、

包丁と、醤油と砂糖もってこいよ!」

 

なんの事だか解らず、

とりあえず呼ばれたから仕方なくやってきた調理師。

もちろん、首をかしげて、

 

「この鯉、どこから持って来たんだ?」

 

って、言ってたそうだけど、

ユウさんが、

「もう、良いから、早く食べようぜ!」

 

と、説き伏せて食べたらしい。(笑)

 

どどさん、またまた素朴な質問しちゃったよね。

 

「錦鯉って、普通の鯉とは味違うの?」

 

ユウさんの答えは、さすがだった。

 

「何言ってんだよ!錦鯉も鯉も一緒だよ。

柄が違うだけだよ!」

 

ああ、しかし、その柄が違うだけで、

お値段が全然違うのだが・・・

 

「しかし、結構食べごたえあってさ、

鯉こくと酒で、給料日までなんとか生きれたよ。」

 

酒買うお金で、米でも買ってくれよ!

と、喉元まで出かかったが、

なんせ相手は「酒命(さけいのち)」のユウさんなので、

そこは、飲みこんだ。

 

こうやってユウさんは、

錦鯉をパクって食った男として、

後世まで語り継がれるのだ。

 

今だったら、防犯カメラで犯人割り出されて、

ユウさんは、懲戒免職になっていただろう。

本当に、良い時代だったね(笑)

 

そんなユウさんだが、

定年退職後、やはり家に帰りたくなくて、

大好きな山の近くにある中古のペンションを、

退職金で買って、一人で暮らしている。

 

かなり奥様に怒られたそうだけど。

 

しかし、山やスキーの仲間が、

恐ろしい程沢山居る為、

ちょっとした商売にもなってるようだ。

 

毎週末には、ユウさんのペンションを起点に、

山登りやスキーに出かける仲間が泊りに来て、

中には、長期ステイの方も。

 

いつも楽しくて、

どんな人でもウェルカムなユウさんは、

沢山の人に愛されている。

 

ユウさんの生き方を見ると、

「好きこそものの上手なれ」

という言葉が浮かんでくる。

 

どどさんの人生の師匠と言っても、

過言ではない。

 

師匠に会いに行きたくなった。

一升瓶片手に、訪ねたい。

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