せっせと別居準備を進めるダーリンがふと、
「寂しいのか?」
と聞いてきたので!
下を向いたまま首を縦に振った。
いや、本当は寂しい訳ではなくて、
いない間にすっちゃかめっちゃかに予定を入れた為、
今日はどんなスケジュールだったかな?と思い出して居たのだ。
しかし、ダーリンは、「想って貰えている」状態を常に確認したい人。
どういう訳だか、想われている前提ではダメなのだ。
ここの少しのニュアンスの違いを間違えてしまう事で、
今まで何度も怒られてきた。
なのでその手の質問には、肯定の態度で臨むのが正解なのだ。
そう、言葉では無く、態度。
つまり、首を縦に振る事だ。
なんなら、少しションボリした顔が出来たら尚良いだろう。
この辺りも微妙なニュアンスの違いで怒りスイッチを押さない工夫だ。
「早く帰って来るからね!良い正月迎えようぜ!」
おそらく自分に向けて言って欲しいであろうセリフを言うダーリン。
「うん!」
少し笑って返事をした私。
今日は12時開演だから、
10時半まで例のコワーキングスペースに行ってブログを書こう。
よし、まとまった。
昨日、手紙を書いた時に指に付いてしまった万年筆のインクが、
気になって仕方ないが、
別に本人に直接渡す訳ではないから、大丈夫だよね。
「帰って来たら、沢山遊ぼうね」
いつもよりも楽しそうに、
自分に言い聞かせるように言うダーリンは笑顔だった。
ダーリンの気持ちを裏切ってるのは私の方だ。
荷造りを終えたダーリンと一緒に家を出た。
じゃあ後でね!とダーリンの荷物を入れたスーツケースをゴロゴロしながら、
私はダーリンが思って居ない方向へ向かった。
家からほど近い、ビジネスホテルは、
インバウンドの影響からか、
外国人の宿泊者が多い。
そんな異国の雰囲気のある広々としたロビーには、
コワーキングスペースが併設されている。
快適なWiFi環境、
適度に緊張感を持つ事が出来る
半プライベートな雰囲気も良い。
そこで、私はしばらくコーヒーを飲みながら、
ブログを執筆した。
ふと、目を落とすと、既に出発の時を示していた。
そそくさと片付け、会計を済ませ、
ゴロゴロとスーツケースを押して向かったのは、
梅田芸術劇場だった。
エントランスに入ると手荷物預かり所がある。
そこにスーツケースを預け、
例の手紙も預けた。
出演者の方へのプレゼントや手紙は、
こうやって渡すのが一番スマートかも知れ無い。
座席に座ると、
思いの外、隅っこの席で、
ああ、やはり初めに持っていたチケットの方がセンター寄りで観やすかったと後悔したけれど、
行けない日なので仕方ない。
某掲示板で交換をお願いしていたら、
希望の日の交換申し込みが来たので、
有り難くお願いした席だったのだ。
梅田芸術劇場の二階席と三階席は、ぐるりと半円形になっており、
隅っこの席は、舞台を斜めに見る感じになるので、
若干見切れが出るのだけれど、
二階席ならば許容範囲だ。
ロックオペラモーツァルトは、
新生星組のお披露目公演。
そんな事もあいまって、
連日、他組のスターさんが観劇にやってくる。
今日は誰が来るのだろうか?と思っていたら、
先日千秋楽を迎えたばかりの花組では無いか!
え?????
柚香さん・・・・・・・・・
通常二階席からは一階の客席が見えないものだけれど、
奇しくも私のバルコニー席にほど近い隅っこ席からは、
よく見える。
しかも斜め後ろからなので、
柚香氏の美しい横顔が見えたのだ。
舞台の演出の中で、礼真琴さんが、客席に降りて、
下手の客席通路でお芝居して、下手前方扉からはけるというものがあり、
奇しくも下手席の私は、全く礼さんが見えない為、
柚香氏を観ていたのだけれど、
ものすごく楽しそうに眺めているでは無いか。
フィナーレも凄く盛り上がって、
人一倍手を上にあげて拍手を送る柚香氏。
どうも、花組に異動する永遠輝せあさんの事もあり、
柚香さんの任期などが気になり、
素直に喜んで居なかった私だけれど、
こうやって、同期のお披露目公演を楽しく観劇している柚香さんを観て、
私も楽しまなくちゃ、と思えてくる。
今を生きるのだ。
過去を悔やみ、未来を杞憂する。
そんな時間は要らないのだ。
トップスターに就任したばかりの柚香さんに会えたのは、
何を隠そう、ダーリンのおかげである。
ダーリンは1週間程、別居するのだ。
その為に、私は仕事を休んで荷物を運ぶのを手伝い、
空き時間を利用して観劇したとしたという訳なのだ。
ロックオペラモーツァルトの劇中に
音楽は勝ち負けじゃ無い
音楽は、料理だ
好きか嫌いか
それだけの事だよ
女房も同じだ
悪妻か良妻賢母か
もっと美人か
そんな事はどうでもいい
僕にはちょうど良かった
僕には合ってたってことさ
というセリフが有って、
ダーリンもそんな風に思ってくれるといいなと、
強く思う。
ダーリンは入院する。
結婚してからずーっと色んな病気をしてきて、
私は旅というよりも冒険をしているようだった。
次々と超えなければならない山や谷を
冒険している。
ダーリンが最後の一人旅に出るその日まで、
この冒険は続くのだ。
壮大な冒険が終わった時に、
私が一人で続けられる旅のプランは
もう、考えてある。
大好きなジェンヌの全国ツアー公演を追いかけるのだ。
人生はシングルタスクではなく、
マルチタスクで回してこそ楽しい。
悲しさで、涙の海に溺れても、
パラレルワールドがそこに有れば、
息ができるのでは、無いだろうか。
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